東京多摩 駄菓子を通して生まれる繋がり
まちの中にはさまざまな場所があります。学校、市役所、コンビニ、駄菓子屋、カフェ。役割を持った場所もあれば、一見役割があるけれどそれを超えたやりとりや雰囲気が生まれる場所もあります。
今回はそんな場所をHIPAHIPAスポットと呼び、全国で一斉にHIPAHIPAスポットを開くイベント「HIPAHIPA week」の一環として、地域での実践のお話を聞きました。
今回話を聞いたのは「+laugh」を運営するかげさん。かげさんはPIECESが行っているプログラムCitizenship for Children(CforC) 2020年の修了生です。訪問看護ステーションや重症児者のデイサービスを経営している会社の代表であり、CforCを受講した後、2021年4月「+laugh」という事業所を開設しました。「+laugh」は障害の重い方や医療的ケアの必要な方など、いわゆる重症児者が通う事業所です。その事業所の一角をフリースペースとして開放したり、駄菓子屋を開いたりと多様な取り組みをされています。
"駄菓子"で繋がる自然な関係を大切に
商店街の中にある「+laugh」には遊歩道に面して駄菓子屋も併設されています。事業所の利用者や職員が一緒に運営していて、駄菓子を通して地域の方と自然なふれあいが生まれる仕掛けになっていると言います。
駄菓子は100円でも好きな物を色々楽しめる価格帯。駄菓子屋は大人も子供も対等になれる場所なのです。
自身の幼少期にも地元の駄菓子屋で先輩や近所のおばちゃんなどとの自然な関係ができた経験を持ち、「駄菓子屋は世の中の縮図」と例えるかげさん。普段の生活で接点がない人同士を無理に知り合わせようとしても様々な弊害が起こってしまう恐れもあります。だからこそ、自然な形で知り合って友達になれるような場を作ることを大切にしているそうです。
長い時間の中で生まれるゆるやかな繋がり
駄菓子屋の前のベンチでいつもタバコを吸っていくおじさんがいました。少し近寄りがたいような雰囲気。特に声をかけるでもなくずっと見守って過ごすこと半年以上。おじさんはある時からうまい棒を2本買ってくれるようになりました。いつからか外でも挨拶すれば返してくれたり、そうするとおじさんの意外な一面も見えてきたり。「+laugh」を開設して1年。駄菓子屋がなければ繋がりえなかった方と繋がれている。そんな風景がいくつも生まれているそうです。
一人ひとりが対等な"市民"であること
かげさんが大事にしているのは、「利用者、職員、障がい児、健常者といった立場でくくるのではなく、一人ひとりが対等なひとりの市民として過ごせるような場にする」ということです。
障がいの重い方々はサービスの「受け手」になってしまいがちです「+laugh」では決して職員が「サービスの提供者」になることなく、どちらも同じ地域で暮らす市民であり、お互いに手助けが必要な時にできる人が助けるという考えを大切にしています。職員でもいろんな思いを持ってる人がいて、そのどれもが正しいとか間違ってるということはなく、お互い違った視点の思いも大切にしたいとかげさんは言います。
また、イベントを開催すると、参加した子どもたちが周囲を見て車椅子の方とどう関わればいいか学ぶこともあれば、地域の方々にいただく言葉から職員側が気付きを得ることもあります。このように共に同じ時間を共有することで、一人ひとりが対等な関係で影響を及ぼし合う豊かな空間になっています。
むすびに
一人の市民として優しい眼差しで人々を見つめ、お互いが心地よい距離感でいつのまにか繋がっている。「+laugh」はそんな温かい空気に包まれています。一方的でなく双方向のやり取りがあり、みんながお互いに支え合っているという関係は、まさにCforCのテーマにもなっている市民性(Citizenship)が発揮されている場面なのではないでしょうか。
執筆:松田真由美
編集:くりちゃん