しゃぼん玉で道ゆく人とゆるくつながる〜まちの風景として〜
まちの中にはさまざまな場所があります。学校、市役所、コンビニ、駄菓子屋、カフェ。役割を持った場所もあれば、一見役割があるけれどそれを超えたやりとりや雰囲気が生まれる場所もあります。
今回はそんな場所をHIPAHIPAスポットと呼び、全国で一斉にHIPAHIPAスポットを開くイベント「HIPAHIPA week」の一環として、地域での実践のお話を聞きました。
今回話を聞いたのは東京都立川市の駅前でしゃぼん玉を飛ばしているさやかさんです。さやかさんはPIECESが行っているプログラムCitizenship for Children(CforC) 2021年の修了生です。JR立川駅の近くのモノレールの下の遊歩道でしゃぼん玉を飛ばしています。家族連れやいろいろな地域から遊びにくる人がいる中で一緒にしゃぼん玉を飛ばしてくれる人がいればしゃぼん玉を一緒に飛ばしたり、じーっと見ている人は見ていってもらったりしています。
まちの風景としゃぼん玉
普段は精神保健福祉士として働いているさやかさん。子どもから大人までその人が安心して地域の中で生活できるようにお手伝いをしてきた中で、福祉職をやってきた誇りと自分の中で賄いきれない葛藤を抱えていました。昨年5月から受講したCforCプログラムを通して少しずつ自分の思いや葛藤を整理し、その先に始まったのがこのしゃぼん玉の活動です。
しゃぼん玉をするようになったのは半年ほど前、2つのキーワードが結びついたことから始まりました。1つ目は、CforCの中で「子どものためのまちづくり」をテーマにした講座で、九州大学の田北先生のお話に出てきた「まちの風景」。2つ目は、東日本大震災のあった3月11日に毎年しゃぼん玉を飛ばしてお家に帰る、という記事を読んで頭に強く残っていた「しゃぼん玉」。CforCの講座を通して、「まちの風景」と「しゃぼん玉」という2つのワードが結びついたそうです。そして、試しに駅でしゃぼん玉を飛ばしてみた話をCforCスタッフのくりちゃんにすると「それいいじゃん!」と言ってもらえたことから、活動としてやってみようかなと思ったのが始まりだそうです。
大人って意外と不器用なのかも
しゃぼん玉を通して出会った人々の話を聞くと、木陰でずっとみている子もいたり、走り寄ってきて一緒に飛ばし始める子もいたり。お父さんお母さんが「行くよ」と呼びかけても、ずっとしゃぼん玉遊びしてたりする子どもがいるそう。それぞれの距離感やコミュニケーションの取り方があり、自然体で思い思いに過ごしているとのことでした。
「その自然さの中にわたしも無理せず一緒にいられたらいいな」という思いがあるさやかさん。
一方で大人で声をかけてくれる人もたまに現れるとか。中には小銭をそっと置いていこうとする人(大人)もいて、「大道芸じゃなくてただ遊んでるだけだから、投げ銭大丈夫ですよ」と言っても「終わったらジュースでも飲んでください」と言われたそう。そんな出会いを振り返り、「なんか大人って不器用で愛らしいな」と話すさやかさんのまなざしはとてもあたたかいものでした。
一期一会、「専門性」をもった一市民としてできることを
しゃぼん玉を始めた頃は自分の役割にがんじがらめになっているところにすごく傷ついていた、とさやかさんはいいます。専門職といった役割を全部自分の中から取り払いたい、下ろしたいと。当初はCforCでいう「市民性」と「専門性」を完全に分けなきゃいけないと思っていたそうですが、しゃぼん玉をやっていく中で、この人ちょっと気になるな、というような人に出会い、少しずつさやかさんの考えは変化していきました。
今はしゃぼん玉をやっているときに自分の「専門性」を求めてくれる人に出会ったら、そのときは惜しみなくその「専門性」をちゃんと提供したいと話し、「市民性」と「専門性」を分けるのではなく、その中間みたいな活動ができないかと模索しているとのことです。
「困った時に相談する」よりもまずは出会っておく
さやかさんは仕事での直接支援を通して、困った人が相談に行く時は一緒に行ったり、代わりに連絡調整をした経験から「人に相談するというのはすごくスキルが要ることだ」と痛感したそうです。わかりやすくまとめすぎても伝わらないし、要求をまとめるのではなく段階的に何回かに分けて信頼関係を築かないと相談にならなかったり。そういった自分が得てきた相談のスキルをしゃぼん玉を通して出会った地域の人たちに伝えていけば、困った時に人に相談し、困っていない時は相談しなくていいという過ごし方もができるのではないかと考えているそうです。
むすびに
困った時よりもまずは出会っておく、種をまいておく。しゃぼん玉というゆるっとした時間、空間を同じくすること、たまたまそこで出会ったことをきっかけにもしかしたら少しでも困った人が生きやすくなるのかもしれない。そんな願いを込めてさやかさんはしゃぼん玉をその場を同じくしている人たちと共に飛ばします。
執筆:しょうこ(ひつじ)
編集:くりちゃん