東京都南千住の街に佇む図書館「なにかし堂」
まちの中にはさまざまな場所があります。学校、市役所、コンビニ、駄菓子屋、カフェ。役割を持った場所もあれば、一見役割があるけれどそれを超えたやりとりや雰囲気が生まれる場所もあります。
今回はそんな場所をHIPAHIPAスポットと呼び、全国で一斉にHIPAHIPAスポットを開くイベント「HIPAHIPA week」の一環として、地域での実践のお話を聞きました。
今回話を聞いたのは東京都南千住にある地域の街の図書館として子どもからお年寄りまでどなたでも本を借りれる場所である「なにかし堂」を運営する、野口貴裕さん。野口さんはPIECESが行っているプログラムCitizenship for Children(CforC) 2021年の修了生です。
もともとは子どもを対象にした場所ではなかった
野口さんは平日に非常勤で、中学校では特別支援員として、高校では特別外部講師として働いています。そんな野口さんがなにかし堂を始めたのは2020年の春。元々は知り合いの教員2人と共に「学校の先生向けの居場所」をつくり、野口さん自身は「ゆるくお手伝いをしよう」という関わり方で考えていました。ですが、コロナになって状況が一変。一斉休校で学校の先生が集まれる状況ではなくなりました。
それならということで、まちに自分たちができることを探すため、毎日なにかし堂を開けてみました。そうしているうちに、子ども達が来るようになり、実験的に活動していたら今のような状況になったそうです。
平日の放課後は地域の人や子どもたちが来て、学童のように自由に過ごしたり、地域の方がカレーを持ってきてくれたり、地域の交流を促すような活動の場になっているそうです。集まってくる子どもたちは「やんちゃな子が多く、言葉も結構きつい…時もあるけれど、皆元気にしてるなぁと思う」と野口さん。中には様々な課題を抱えた子どもたちもいるそうです。
関わり方で生じた迷いのヒントを得たかった
なにかし堂で子どもたちと1年以上関わりができたなかで、ただ共に過ごすだけでなく、ある意味、先生や保護者のような関わり方をしなければいけない時もあり、関わり方に迷いが生まれたという野口さん。その解決のヒントを得たくてCforCに参加したそうです。
CforC受講後には、正解を求めようとしない、みつめる/眺める/味わうということが大事なんだなと思うようになったそう。すぐにこうした方がいい!と決めるというよりは、そこで起きていることをみつめたときに、自分がどう感じたか、その子自身がどう感じたかを俯瞰してみるということが大切だと感じたそうです。
子どもたちにとって気晴らしになる場所
「なにかし堂集合ね!」と待ち合わせ場所として、これまで来たことが無い子もくる機会があったり、家から出られなかった不登校の子がなにかし堂に来れるようになり、受験をきっかけに高校にも通うことができるようになったり。家ではうまくいかない子も、なにかし堂に来れば頼れる大人がここにいて、気晴らしになる瞬間がここにはあるように思えると答えてくれました。
野口さんが子どもと関わるときに意識しているのは、自分の気持ちを大事にするということ。嫌だと感じたらちゃんと伝え、無理に同じ場にいないようにしているそうです。
むすびに
なにかし堂のWEBサイトにはこんな記載があります。
なにかし堂は
・某(なにがし)
・始動(しどう)
の二文字を組み合わせています。その人の内側にある「曖昧な感情」(某)を大切に、濁り(濁点)をとると、「なにかしたい」になる。そんな意味合いを込めています。
誰かの居場所に、自分の居場所に、そして「なにか、始まる。きっかけに。」
なにかし堂はそんな存在になっているのかもしれません。
執筆:大谷聡子
編集:くりちゃん